経営者・有識者インタビュー

第24回

人をつなぐ喜びは数学の美しさに通じる

勝屋 久 氏
(プロフェッショナル・コネクター)

社会でどのように役に立っているかわかりにくいと言われる「数学」。このコーナーではさまざまな分野の第一線でご活躍中の方々に、社会と数学のかかわりについて語っていただきます。

第24回はIBM Venture Capital Group パートナー日本代表や、経済産業省の国家プロジェクト「未踏IT人材発掘・育成事業プロジェクト」(事業主体=IPA:独立行政法人情報処理推進機構)のプロジェクトマネージャーなどを経て独立し、現在はプロフェッショナル・コネクターとして活躍する勝屋久さんにお話をうかがいました。

「プロフェッショナル・コネクター」とは何か?

「プロフェッショナル・コネクター」とは、いったいどんな仕事でしょうか。

勝屋さん:
私は日本IBMという会社に勤めていたときから、人と人をつなげることをずっとやってきました。誰かと誰かがつながって、ワーッと喜んでいる姿を見るのがとても嬉しいんです。その欲求が私は誰よりも強いのだと思います。ただ、それが職業であるというとみなさんは理解不能になってしまいますよね。多くの人は収入源イコール仕事ととらえていますから。でも、世の中には「経営コンサルタント」や「会社役員」などさまざまな職業名がありますが、正直やりたいものがないんですよ。そこで私は収入源ではないものも含めて職業にしようと考えることにして、生まれた職業がプロフェッショナル・コネクターです。つながりをつくって人が輝くお手伝いをするのが私の仕事のもっとも大きな部分です。

いわゆる「人脈づくり」のお手伝いをイメージすればよいのでしょうか。

勝屋さん:
私は人脈をつながりとはとらえていません。地位やお金のある人に近づき何かを差し出して、「これでWin-Winですね!」といいながら利益を得るようなことが私の定義する人脈づくりです。それはビジネスで必要なことであり、私も会社員時代にやっていたので否定はしませんが、いま私が取り組んでいるのはおもしろい人たち同士をつなげて仲間をつくることです。つなげているのは年間に約500組になります。ただし心をベースにつながりをつくっているので、「お金を払うから紹介してください」と頼まれても、自分の心が動かなければ紹介しません。お金が介入するとフェアでなくなるし、私のやり方にとってもよくないからです。打算なしにつながっているからこそ言いたい放題でき、安心して付き合える仲間になれるんです。人間なのでたまに打算が顔を出すこともありますが(笑)、いまはそういうことはまずありません。

収入はどうやって得ているのですか。

勝屋さん:
たとえば、つながりの大切さを伝えるお仕事があります。具体的には企業や官公庁での講演や大学での講義。いま、大前研一さんが学長のビジネス・ブレークスルー大学で「つながりからみるアントレプレナーシップ」という講座を設け、なぜつながりの捉え方を変えて、自分を磨く講義を行っています。また、私とコネクター応援団契約を結んでいただいた企業経営者のメンタリングをしたり、チームビルディングをしたり、変わったところでは会社の絵を描いています。創業者や経営者の方にインタビューし、組織のエネルギーを感じながら会社のビジョンをイメージし、一気に描き上がるんです。つながりを伝える絵やオリジナルグッズの販売も手がけていて、福井県鯖江市の眼鏡職人さんと越前漆器の職人さんとコラボレーションした眼鏡をプロデュースしたりしています

欲求の種類が美しさを決め、美しさに基づいて人をつなぐ

ビジネスで人をつなぐのは目標やプロジェクトを達成するためにやることが多いですが、勝屋さんのやっていることはまったく違いますね。

勝屋さん:
私も会社勤めの初期はそういう仕事をやっていました。先にゴールがあって企業の強み・弱みを分析し、それを補完できる組み合わせを考えて会社と会社をつないでいくような。でも、ロジカルに考えるとうまくいくはずなのに、実際にはうまくいかないことが多々ありました。結局、ビジネスは人と人が協力してするものですから、相性が合わないとダメなんです。とくに大企業の場合は働いている人がみんな会社員なので、それこそ『半沢直樹』の世界のように物事を動かすパラメーターがたくさんある(笑)。ピュアな欲求だけで動いているわけではないんですね。ただ、その世界を通ってきたからこそ、「ロジカルに考えるとこの組み合わせはないけれど、つなげてみたらおもしろいことが起きそうだ」と感覚的にわかる部分もあります。

「この人たちをつなげるとおもしろい」という公式や数式のようなものはあるのですか。

勝屋さん:
そういう原理原則はきっとあると思います。数学的な説明はまだ私にはできませんが、「美しいか・美しくないか」という見方はよくします。ここでいう美しさとはビジュアルの話ではなく、欲求のことです。欲求には2種類あると私は思っています。たとえば、みなさんのなかでも欠落しているものを穴埋めするような欲求と、純粋に「これをやりたいんだ!」という欲求の2つがありますよね。後者のピュアな欲求で行動している人を見ると、私は美しいと感じます。ベンチャー企業の経営者はそれが非常にわかりやすく、しかも覚悟を決めて取り組んでいる人が多い。ただ、覚悟を決めたときはピュアな欲求に基づいているんですが、人間なのでぶれることもあって、前者の欲求が顔を出すこともあります。でも、ベースがピュアな欲求であればそれもOKです。逆にベースが「お金儲けをしたい」「自分の地位を高めたい」という欲求の人は、やはり私は遠ざけてしまいます。ピュアでない欲求が悪いというわけではなく、それも人間っぽくておもしろいとは思いますが、エネルギーの方向が私とは合わないと感じます。

ベースとなる欲求で美しさが決まり、その美しさで判断すると。

勝屋さん:
ピュアな欲求から生まれた製品やサービスは美しいと思いますし、数学はまさにそんな世界だと感じています。たとえばオイラーの公式なんてとても美しいじゃないですか。別に成績や偏差値を上げたいからではなく、そこに見える本質は何かを知りたくて問題を解き、それを数式で表すってものすごく美しい世界だと思います。自分が子どものころも、数学が大好きで別に進学のためではなく、純粋に数学の問題を解きたいという欲求に突き動かされて勉強していました。しかもビジネス社会で一定の成功を収めている人は数学をかじっていることが多いので、こういう話をすると「勝屋さん、数学がわかるんだ!」といって盛り上がり、人とつながっていくことができます。私が数学科出身とは誰も思っていないので、意外に感じられるようです。

以前はピュアな欲求をベースにしていない世界で働いていた勝屋さんが、現在のような仕事の仕方、生き方に転換するきっかけは何でしたか。

勝屋さん:
いま日本IBMの会長をされている橋本孝之さんが事業部長のときに「ベンチャー企業がいっぱい生まれてきたからそこに営業してくれ」と言われ、1999年、まだ規模が小さかったころの楽天やサイバーエージェントといったベンチャー企業の経営者に会いに行ったことです。衝撃的でした。みんなエネルギーに満ちあふれ、目がキラキラしていたんです。なぜかというと、みんな自分のやりたいことをやっているからです。もちろん会社のなかで与えられたミッションを自分のやりたいことに転換し、合わせてやっている人もいると思いますが、やはり自分のやりたいことを起業してやっている人はエネルギーの高さも覚悟も違います。それまでも会社で営業やマーケティングの仕事を楽しくやってはいたのですが、すっかりベンチャー企業の経営者たちのエネルギーにやられてしまったんです。

とはいえ、すぐに変われるものですか。

勝屋さん:
最初は気持ちが高揚しましたが、だんだん心が苦しくなりました。だって、「自分は何者か?」「自分に何ができるのか?」という正解のない問いに向き合わなければいけないのですから。多くの創業経営者は早い時期からそのことで悩むのですが、私はベンチャーの人たちと出会った37歳くらいのときから悩みだしました。そのなかで私は人をつなげることが本当に好きだったので、大手企業の事業開発や経営企画の人たちとつながるコミュニティや、ベンチャー企業の経営者と投資家をつなぐコミュニティをつくり、ボランティアで仲間と運営しました。そしてみんなから喜ばれたりほめられたり、経済産業省のおもしろいプロジェクトを特命でやらせていただいたりもしたのですが、それでもこのままでいいのかという悩みはありました。そんなとき、他社からまったく知らない方が上長としてやってきて、いきなりリストラされたんです。

急に状況が変わったのですね。

勝屋さん:
今にして思えばその上長は神様の使いで、とても感謝しています。私は弱い人間なので、そんな機会がないとずっと会社にしがみついていたでしょう。本当のゼロスタートで、強い覚悟を持つこともできました。それで、私がやろうとしていることをリストアップし、ビジネスで大成功している友人たちに見せたら思いっきりダメ出しされまして。「かっちゃんの社会的なバリューはこっちにある」というように、要は人との関わりを通して自分を知ったんです。「プロフェッショナル・コネクター」という職業名も、セプテーニ・ホールディングスという上場会社の佐藤光紀社長と居酒屋で飲んでいるときに「こういう名前でやってみるといいんじゃない」と言ってもらい、「それ、いいね」というふうに決まりました。

数学で知的体力を育む

プロフェッショナル・コネクターという仕事をするうえで、数学を学んだことはどのように生きていますか。

勝屋さん:
直接的に役立っているわけではないですが、私は数学の問題を解くときにあきらめなかったんです。2週間考え続けたこともあるぐらいで、ある意味、要領の悪い子どもだったんですね。でも、そうやってあきらめずに考えているといずれ問題は解けるので、それがとても嬉しかった。

1つのことを考え続けられる、知的体力が身についたのですね。

勝屋さん:
そうです。私の場合、先に答えを見ても全然おもしろくない。ただし、このやり方が常に正しいかどうかは別の話で、私が弟に数学を教えたときに「面倒くさいから早く答えを教えてくれ」と言われ、何回もケンカになったことがあります。数学に興味がないのなら解法のパターンを覚えるだけでよいのかもしれませんが、私は難しい問題でもあきらめずにチャレンジしたい。そんな姿勢は数学で育まれたような気がします。

ほかにも数学が役に立っていることはたくさんあって、たとえば、プロジェクトなどで一つの方向性が決まれば、どうやったら達成するかを思考錯誤したり、選択枝をさがしたり(数学の問題を解くように)する論理的思考力のベースを形成しているのも役に立っていると思います。それから、自分の想いや意志を相手に伝えるときの論理的な話し方にも。あと、私は数式よりも図形が好きで、子どものころにずっと図形を眺めていたことが人を覚えるのに役立っています。1年間に2600人から2700人の方にお会いするので、名前ではとても憶えられません。ではどうするかというと顔認識、つまり図形で記憶するんです。最近はいっぱい絵を描くのですが、フィボナッチ数や二重らせんといったものにずっと興味があって、そこからインスピレーションを受けてもいます。

数学は子どものころから好きでしたか。

勝屋さん:
私にとって数学は初めて没頭した学問です。そして数学ができるようになると、それまで音楽の成績は5段階評価の1や2だったのですが、いきなり5に上がりました。イ長調やハ長調などのメカニズムなど、音楽はみんな数学的ですから。大学は数学科に進学し、将来は数学の教授になろうと思っていたんですが、あまりにも授業が難しく、かつ数学科に集まっている学生たちがずば抜けて頭がいいので断念し、ほかの道へ行くことにしました。担当の教授の家へ遊びに行ったとき、東大の数学科の学生も来ていたんですが、何を言っているのか全然理解できずショックでした。数学科の頂点にいる人たちはそんな感じで、ある意味、アーティストのようでした。

プロフェッショナル・コネクターである勝屋さんから見て、普通の人と数学をつなげるにはどうすればよいでしょうか。

勝屋さん:
本当に数学が好きな大人と、子どもが出会える機会をつくるとよいと思います。どうしても学校の授業にはワクワク感が足りないので、ピュアに数学が好きで、数学にワクワク感を持っている大人がそれを伝えるのが一番手っ取り早いですし、大人のワクワク感が心に刺さる子どもたちもきっと出てくるでしょう。数学に限らずどの学問も楽しさが大切で、子どもは正直だから先生が楽しくないと察知します。それぞれの分野でワクワクしている大人が特別授業をして、それが心に刺さる子どもを増やしていくような取り組みがよいのではないでしょうか。

今日はありがとうございました。

プロフィール

勝屋 久(かつや ひさし)

プロフェッショナル・コネクター

1962年東京生まれ。1985年上智大学理工学部数学科卒業。1985年日本アイ・ビー・エム入社。 2000年IBM Venture Capital Group パートナー日本代表、経済産業省の国家プロジェクト「未踏IT人材発掘・育成事業プロジェクト」(事業主体=IPA:独立行政法人情報処理推進機構)のプロジェクトマネージャーなどを経て、2010年8月に独立。「つながりで人がもっと元気になるお手伝い」がしたく、プロフェッショナル・コネクターという職業をつくり、現在に至る。過去13年間に約6000人以上のベンチャー企業の経営者、約800人の投資家・ベンチャー支援者の方々と接してきた。1年間に2000人以上の人と出会い、500組以上をつなげる。 ビジネス・ブレークスルー大学 客員教授、富山県立大学MOT 非常勤講師、八戸大学・八戸短期大学総合研究所 客員研究員、総務省NICT ICTメンタープラットフォーム メンター、上場企業、スタートアップ企業の顧問・メンター・つながり応援団、講演および講義多数。ブロガーやペインティングアーティストでもある。

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